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ミャンマー、カンボジアへの生産シフトに新たな方向性を模索するベトナム繊維業界

アパレル生産のベトナムからミャンマー、カンボジアへのシフト

昨年10月のTPPの基本合意以降、大いに注目を集めているベトナムのアパレル業界だが、今年に入って欧米の顧客の動向に新たな方向性を模索している実態が浮かび上がってきた。2016年5月19日の現地経済誌「サイゴン経済時報(Thời báo Kinh tế Sài gòn)」に現状の実態を把握した記事が掲載されていたので、以下にご紹介したい。

繊維産業:下は切り捨てられ、上だけが生き残る

 繊維業界の多くの顧客が発注先をベトナムからミャンマーやラオスにシフトした。欧米向けの特恵税制を受けたいがためである。この動きの前に、国内企業は現状の顧客をなんとしても引き留めようとするのか、それともサプライチェーンの仕組の改善の方向に向かうのか?

4月末のホーチミン市で開かれた会議でベトナム繊維協会(VITAS)のVu Duc Giang会長は、ベトナム繊維業界が現在非常に厳しい局面にあるという現状認識を示した。とくに、中小企業の多くは、生産を取り巻く環境条件が非常に厳しいため競争に勝てず廃業の瀬戸際にあると述べた。2016年1月だけで多くの顧客が、欧米向けの特恵税制措置があるという理由からミャンマーやラオスに注文をシフトしたという。

この現象は一時的なものだという意見もある。だが、原材料の供給、人的資源、生産方式、から技術、設備など、ベトナム国内繊維産業を総合的に見て比較すると、この現在の注文薄の状況は、各企業が投資計画、技術革新、生産方式の強化などについて、自社を振り返るための「特効薬」と言えるだろう。

 

大企業、中小企業ともに試行錯誤

サイゴン縫製(Garmex Saigon)社のLe Quang Hung取締役会会長は、ミャンマー、ラオス、カンボジア、バングラデシュへのシフトに不安を隠さない。同氏によれば、これらの国々の繊維産業が伸びているのは疑いようのない事実である。価格の中程度あるいは廉価な商品の生産性は、これらの国々は人件費が安いため、ベトナムに勝るとも劣らない。

けれども、技術レベルが要求されたり、工員の器用さが求められたりする難易度のやや高めの商品に集中すれば、これらの国々との競争にさほど心配するまでもないと同氏はGarmex Saigonの近年の方向性に触れて言う。「数量が多くて値段の低い商品で競争するのはたいへんですが、中級から高級路線のブランドの要望に応えることでは負けていません。これもGarmex Saigonが競争力を高めるために近年集中している発展の方向性です」

総人員が4000名以上も数えるこの生産メーカーでは、Tシャツ、ポロシャツ、フリース、ジーンズといった技術をさほど要求されない商品はブンタウやクアンナムの人件費の安い工場で生産し、HCMCの工場では付加価値が高く、技術レベルを要求される商品を生産している。Garmex Saigonが発展していく観点に立ちながら、繊維産業一般論として彼が言うのは「付加価値の低い商品を維持するよりも難しい顧客を満足させる」ことを目指すべきということである。

一方、Saigon 2縫製(ホーチミン市タンビン区)はHCMC市内の工場に1400名を抱えるが、コンパクトな生産工程、近代的管理方式を採用して、生産性を向上させ、安定的に日本や欧米向けの注文に応える。

Nguyen Huu Toan副社長は、現在苦戦している中小企業のほとんどがTPPを迎えるにあたり、<糸-織り-染め-縫い>の生産チェーンを発展させる必要があり、組織改革が必要だと主張する。これには非常に大きな資金力が必要である。これ以外にも、染め工程にて環境保全を保証するための投資という「ボトルネック」が存在している。そのために、Saigon 2社が現在できるのは生産性の向上で、他には、国内生地メーカーと協力し、中国製輸入生地の使用から国内生産生地に切り替えることで米国向けの注文に対応することくらいであろうと同氏は言う。

ベトナム繊維産業の柱であるVinatexでは生産モデルを転換する戦略を追及している。すなわち、CMT取引からFOB取引さらにはODM取引と展開し、利益率を向上させる戦略である。Vinatexの目標は2020年までにFOB取引を現在の52%から60%へ、ODM取引を8%から20%まで引き上げるというものである。

Vinatexでは2016年に製糸工場投資案件をいくつも抱え、国内の原料供給を強化しようとしている。たとえば、ナムディン省のNam Dinh製糸工場(年間4770トン)、ドンナイ省のPhu Cuong製糸工場(年間6000トン)、傘下企業案件でハナム省のDong Van 1製糸工場(年間5500トン)、クアンナム省のThang Binh製糸工場(年間4500トン)などがある。これらはベトナムが参加しているTPPと欧越(EU-ベトナム)自由貿易協定といった国際貿易協定に備える意味合いを持つ。

 

企業の認識から連携の問題まで課題は山積み

現状、糸や生地の供給メーカーは限られている。とくに、ファッションアイテムについては、足りないものだらけで、顧客の要望に応えて、多種多様の生地が必要なら、中国か韓国の生地を輸入するしかない。

「サイゴン経済時報」のインタビューに対して、あるベテランのアパレル専門家は、繊維産業では厳しさが日に日に鮮明になってきていると語った。一つには、大市場が衰退して消費が落ち、物が売れないこと、加えて、長年にわたり、創造性が不足しているなど生産状況の弱さが変わらないこと。さらに、大きいのが、加工のみで、付加価値を上げられないこと。原材料がなく輸入生地に頼らざるをえないことなどである。彼によれば、FTAのメリットを享受するための「レース」の中で、国内企業は海外直接投資(FDI)企業に劣っており、中にはFTAのメリットは何かすら知らないところさえあるという。「単独では大舞台に立てないことを知って、連携することが必要です。他国へ移る注文もあるかもしれないが、黙って生産性を向上させ、品質を上げ、リピートに力を入れて、行くべきです。どんな値段でも受けるというのは違っています」と彼は言う。

繊維業界では、TPPに加盟しても結局輸入原料に左右されるのなら、大した利益は生み出せないという。ホーチミン市繊維刺繍協会のPham Xuan Hong会長は素直にそれを認める。「もし国内企業が輸入生地を買い続けていれば、いくら多くの注文をとっても、結局、儲けはしれています」企業の努力以外に、一つの方向性が必要で、原料の領域を発展させ、原材料の手配までできるという要望に応えられてはじめて、FTAが施行された際に優遇税制が受けられる。TPPやその他の自由貿易協定が施行される日が近づくに連れ、しっかりとした長期的な計画を重視する必要があるわけで、注文が来たから、行ったからで、一喜一憂していてはいけないとHong氏は言う。

現在の問題の解決する道は、アパレル生産工場と織布工場や資材メーカーとが連携し、取引の繋がりを密にしていくことであって、どこそことは付き合わないというのでは道は開けない。

繊維原材料製造の領域に海外の投資家を招き入れ、政府がしっかりと援助して大型生地メーカーに投資を拡大させ、原材料の製造業を発展させることである。

同時に、協会や関係機関は、国内企業が原産地規定、知的所有権、労働安全、環境保全、社会責任などTPPを初めとするまもなく施行されるFTAに関する見識を得られるような機会を設けることが必要である。

2016年5月19日「サイゴン経済時報(Thời báo Kinh tế Sài gòn)」より

 

 

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